地杉との比較
左が地杉(植林した杉)で右が屋久杉。ともに板目です。比べてみると、屋久杉のほうがはるかに木目が密で、複雑であることがわかります。
材としての屋久杉は普通の杉とは異なった特徴を持っています。心材(木の中心に近い部分)の色が濃く、香りが強いことがまず挙げられます。また、樹脂が多く、普通の杉の6倍以上含まれ、腐りにくく、虫にも強いという屋久杉の性質をつくっています。これが江戸時代に切られた切り株が土埋木として残っている理由なのです。また、成長が遅いため、年輪が詰まっており、独特の木目や杢と呼ばれる模様を生み出します。材質が緻密なので、圧縮、引っ張り、曲げなどの強度も普通の杉に比べると強くなっています。杉は軽い割には丈夫で水にも強いという特徴があり、日本を代表する木材ですが、屋久杉はその良さをよりすぐれた形で備えているといえます。
そのほか、長寿のため、中に空洞を生じたり、あるいは伐採されてから表面が朽ちたり、変色したりしているのも屋久杉材(土埋木)の特徴といえます。他の樹種では捨てられてしまう、このような部分をも活かして作品に仕上げているのも屋久杉工芸の特徴といえるでしょう。
木口
立木を真横に切った面。いわゆる「年輪」です。線一本が一年間に育った幅です。屋久杉は俗に「一寸百年」といわれるほど年輪が詰まっています。
柾目
木を縦に、中心を通る線で(板目に垂直に)切った面。真っすぐな線がたくさん見えます。
板目
木を縦に、年輪の接線方向で(柾目に垂直に)切った面。山形の模様が見えます。屋久杉では板目取りをすることが多いです。
泡瘤(あわこぶ)
小さな渦がたくさん集まっている部分。屋久杉の中でも希少品で、大きなものはめったに見ることができません。樹脂が多いので重たく、赤黒い色合いのものが多いです。
光明(こうみょう)
木がけがをしたり、無理な力がかかったりして、まっすぐに伸びなかった部分は、光の反射にむらが生じ、独特の陰影があらわれます。この光ったように見える部分を光明といいます。
虎杢(とらもく)
光明の中で、規則正しく縞模様になったものを虎杢といいます。木が波打っていた部分で、泡瘤と並んで最高級の素材です。
縮れ(ちぢれ)
これも光明の一種で、こまかい光の筋があらわれます。虎杢の一種とされることもありますが、これは枝周りによく現れ、虎杢よりも細かく、陰影も少し淡いです。
笹杢(ささもく)
年をとった屋久杉の板目にあらわれる木目。若い木では単調な山形ですが、年をとって木の表面に縦じわが入るようになると、板目の山形もぎざぎざした形になり、いくつかの木を貼り合わせたようにも見えます。屋久杉の中でも屋久杉らしい、高級材です。
蓮根(れんこん)
内側にうろができたり、表面が朽ちたりしている土埋木ですが、繊維にそって侵食する「蓮根菌」が入ると小さな穴がたくさんあきます。加工は難しく、手間がかかりますが、独特の表情がでます。
天然素材の屋久杉は材質にかなりむらがあります。特に土埋木として残っている部分は木がうねっていたりして、複雑な木目があらわれ屋久杉の美しさやおもしろさをつくっています。杢のあらわれ方は木取りのしかたによっても変わってきます。それを予測し、木取りのしかたを考えるのも職人のだいごみです。
色のむら
もともとの木の質のほか、伐られた後の水や周辺の土の影響などで変色することもあります。標準的な屋久杉は肌色に近い色ですが、黄色、赤、黒、ときには青みがかったり,紫っぽい色になることも。このような色むらが風景画のように見えることもあります。