屋久杉工芸について

 屋久島のシンボル的存在である屋久杉たち。この屋久杉を使った工芸は鹿児島県の伝統的工芸品に指定されています。とはいっても、その歴史はあまり深くなく、第二次世界大戦以後のことです。
 屋久杉は神木としてあがめられ、江戸時代に泊如竹という儒学者が伐採を進言するまで伐られることがほとんどなかったようです。その後、屋久島からは年貢として屋根を葺く平木にした屋久杉が納められました。明治になってから小杉谷に営林署の事務所が開設され、1960年代に伐採のピークを迎えました。
 現在、屋久杉の伐採は禁止されており、屋久杉工芸に使用されているものはほとんど土埋木や風倒木です。屋久杉工芸で作られるものの種類は非常に多く、箸やアクセサリーからぐいのみや皿、壺、さらにテーブルやついたてなど、挙げればきりがないほどです。屋久杉工芸を専門にしている工房はおもに屋久島と鹿児島にあります。
屋久杉(生木) 屋久杉の生木
 屋久杉は標高500〜1500mあたりに分布しています。ふつうの杉は樹齢300年程度とされますが、屋久杉は2000〜3000年の長寿を誇っています。この原因としては主に屋久島の気候が挙げられます。生育が遅いため、年輪が密で、樹脂が多く、独特な香りがします。また、害虫にも強く、伐られて数百年たっても腐らないため、土埋木が工芸品などに加工されるのです。屋久島では樹齢1000年以上のものを「屋久杉」、1000年以下の天然木を「小杉」、人工的に植林されたものを「地杉」と呼びならわしています。
屋久杉 土埋木 土埋木
 江戸時代、屋久杉は屋根を葺く平木の状態で薩摩藩に年貢として治められました。平木に割るには木目が素直でないといけないので、木目が複雑に入り組んでいる根元の部分は避けて、地上2m程度のところから伐採されました。その切り株は現在でも残っており、屋久島の森に独特な景観を生み出しています。この切り株を土埋木(どまいぼく)といいます。現在、屋久杉の伐採は禁止されているので、工芸ではおもにこの土埋木を使っています。
土埋木の搬出 土埋木の搬
 屋久杉の土埋木も現在ではだいぶ減ってしまいました。写真は昔ながらのトロッコ軌道を使って土埋木を運び出しているところ。縄文杉へのルートです。現在ではトロッコで運べる範囲の土埋木はほとんどとりつくされ、ヘリコプターでの搬送が主になっています。屋久島営林署が管轄しており、安房(あんぼう)の貯木場に運ばれ、屋久島と鹿児島で入札にかけられます。
野積み 野積み
 搬出された屋久杉を屋外で乾燥させます。場合によっては10年以上寝かせておくこともあります。ここから素材によって何にするかを決めるのです。
 よく「盗られないんですか?」という質問を受けますが、運搬にはクレーンを使うほど重いです。そこまで苦労して盗っていく人もいないんじゃないかな・・・。
製材 製材
  材の質を見て、何にするか決まったら作るものにあわせて製材します。板や角材にする場合には、屋久杉を台車に乗せて、巨大なバンドソー(帯鋸)で挽きます。丸太の状態で材の質を見定めるには熟練した目が必要です。製材が終わったら大まかに木取り(作るものの形に切り出す)をします。
木取り(壺) 木取り
 壺や自然花器など、高さ、厚みがあるものは直接丸太から切り出します。この状態ではまだ水分が多いので、木取りが終わったら荒刳りをしてさらに屋内で乾燥。急に乾燥させると割れてしまうので、毛布でくるんだりしてゆっくりと乾燥させます。小さいもので数ヶ月、大きいものになると数年かかります。
前挽きろくろ 切削1
 木がある程度乾燥したら、いよいよ形を削りだしていきます。、荒刳り(あらぐり)から始まって、数回にわけて切削と乾燥の行程を繰り返しながら形を作っていきます。乾燥すると木は収縮し、形がゆがんでしまうのです。写真は前挽きろくろで丸盆を挽いているところ。
横挽きろくろ 切削2
 こちらは横挽きで壺を挽いているところ。回転軸に対して正面にたつか、横に立つかで「前挽き」、「横挽き」と呼び分けています。壺のように大きく、厚みもあるものは乾燥の際にも割れやすく、特に注意が必要です。
鉋がけ 切削3
 機械を使わない作業も少なくありません。最後に仕上げるのはやはり人間の手。写真は鉋(かんな)で垂撥を削っているところです。よく切れる刃物で削ったあとは光沢があり、紙やすりなどよりもはるかに美しく仕上がります。
塗装 塗装
 塗装は表面を美しく仕上げるという以外に、傷を防いだり、乾燥や湿気から作品を守るという目的があります。まったく塗装しないものから10回以上塗装するものまでいろいろです。写真は壺の仕上げ塗り。
 杉の舎では無色のウレタン塗装、生漆のほか、柿渋や墨、蜜ろう、オリーブオイルなど、目的に応じて様々な塗料を使っています。
壺 完成
 こうして完成した作品は杉の舎の本店や仙人村で販売されます。本店の裏にある工房と仙人村で制作されています。